2007年04月27日

第二部 15話

叩きつけられる衝撃波の中心に、ギラリと光る刃が見える。
これが届けば、きっと死ぬのだろう。ぼんやりとスローモーションのような光景の中で、そんな考えが脳裏をかすめた。
でも平気。
この世界で「冒険者は死ねない」ようになっている。
これだけの破壊力ならば、きっと痛みすら覚えることもないだろう。失うものは少なからずあるかもしれないけれど、取り戻すだけの時間はたっぷりと残されている。
急接近する死の世界から、目を閉じてシャットアウトする。
(次に目覚める時は、テモズの街がいいなぁ)
今は懐かしき風景を思い描きながら、sakuraは最後の息を吐いた。
「・・ああ、またやってしまった」
聞こえてきたのは死の断末魔ではなく、自嘲を含んだ呆れ気味の声だった。
目を開ければ、切っ先はそのまま止まっている。その持ち主はといえば、青い光の牢の中にいた。剣を突きつけたままの格好で、ピクリとも動かない。

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posted by さくらもち at 13:05| Comment(3) | とある魔法師の物語

2007年04月20日

第二部 14話

仲は良くないのかな、とぼんやり考えてみる。一定の距離を置いて対峙する男女の間に、親しみと呼べる空気は微塵も感じられない。
だが、どうなのだろう。
「・・・・相変わらず、女の子を追いかけるのが趣味みたいね」
「逃げられれば追いたくなるのは、当然の心理だろ?」
「あんただけだ」
魔法師が苦々しげに吐き出せば、戦士は大きな体を揺すって笑った。杖の先端で赤い結晶が残像を帯び、白銀の大剣が不気味な光を放つ。どちらもかなりの名品であり、魔力の輝きは競い合うほどに強い。
彼らが本気で攻撃を仕掛けたなら、このクラーブなど簡単に廃墟と化すだろう。
すぐ近くにいた凛の横顔に冷たいものが滑り落ちる。それを見たsakuraの手が、自身の頬をぬぐった。ぬれた感触が、生ぬるい風の流れを教えてくれる。

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posted by さくらもち at 14:08| Comment(2) | とある魔法師の物語

2007年04月14日

第二部 13話

懐かしさに、不覚にも泣きそうになった。その声を聞き間違えるはずもない。彼らの象徴であり、中心である人物の姿が思い浮かぶ。
「あ・・」
何を言おう。何か言いたい。ぐるぐると回る頭の中、必死に言葉をひねり出そうとする。文句なら山程あったはずなのに、一瞬にして忘れ去ってしまった。
油断は隙を生む。
「!?」
彼女が反応できたのは、まさに奇跡としか言いようがない。弾け飛んだ床の破片が、sakuraの頬をかすめた。
「ほう、避けるか」
「いいいいいいきなり、何すんのよッ」
「うん? あいつが来る前に、殺しておこうかと思ってな」
床から大剣を引き抜くと、事も無げに言う。あまりの軽さに耳を疑う。だが、この戦士は本気だ。本気で、sakuraを殺そうとしている。今までにない殺気が渦を巻き、幽鬼のような戦士に異様な雰囲気を与えていた。

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posted by さくらもち at 13:18| Comment(3) | とある魔法師の物語

2007年04月09日

第二部 12話

むさくるしい毛皮の群れの向こうで、苛立った声が飛んでくる。
「少しは手伝ってよ!」
「やぁよ、暑いもん」
迂闊にも立ち止まったのが運の尽き。次から次へと集まってくるグルーに囲まれる凛をよそに、sakuraは暇をもてあましていた。
砂漠の中のオアシスは、あらゆる生き物にとっても貴重な水源なのだろう。フォルクバンガルに比べれば小規模だが、ここだけ緑が残っているのも特徴だ。
更にオアシスの水は、赤黒い。
「飲めないな」
「当たり前」
テモズとクァナトの外で、人間が口にできるものはほとんどない。しかるべき処置を重ね、相応の段階を経て、ようやくマトモな物になるのだ。その処方も治療師や、商人たちだけが知っている。

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posted by さくらもち at 21:37| Comment(2) | とある魔法師の物語

2007年04月05日

第二部 11話

彼女(?)はムッとして口を尖らせる。
「その言い方はないでしょ、命の恩人に向かって」
「誰も助けて、って言ってない」
「うわー素直じゃないなー」
凛は頭を振りつつ、大げさに肩を竦める。困った子だ、と苦笑する姿がなんだかしゃくに障った。
「そっちこそ、なんでケロドにいるのよ。弱いものイジメ?」
「・・素直じゃない」
「ほっとけ」
「放っておけないよ、仲間なんだから」
仲間。
懐かしさを呼び起こす響きに、しくりと心が痛む。訳も分からずクァナトで過ごすようになって、それでもクリタロス騎士団との関わりは消えなかった。誰か彼かがやってきて、なんだかんだで狩りに出たり、調査に同行してくれたり、呑みに付き合わされたり、と相も変わらぬ日々を送ってきた。
でも気づいてしまう。彼らがいなくなった瞬間、ふと過ぎる想い。

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posted by さくらもち at 01:52| Comment(4) | とある魔法師の物語

2007年04月03日

第二部 10話

古き文献には、こう記してある。
『豊かな森と自然あふれる土地ケロド』
千年前の戦いにより、エゴニルのほとんどが荒野と化した。その傷跡をまざまざと見せ付けられているようだ。狩りの為に立ち寄った頃と違い、今はその広大な砂地を一望するだけの余裕がある。
甲高い声を上げるハーピーを、白髪の聖騎士が切り捨てていく。あまり高いところを飛べないシルがバタバタと、辺りをメチャクチャに飛び回っていた。
sakuraはただ一人、ケロドの入り口に立っている。
「道が分からん!」
やっぱり一人で来るんじゃなかったと後悔しても、後の祭りだ。テモズとクァナトの双方から転移できるとしても、同じ地点へ飛ばしてくれるとは限らないらしい。羊皮紙の地図は海水でゴワゴワだ。
しばし睨めっこをした後で、ぽいっと投げ捨てた。
「魔門はケロド中央。奥へ向かって歩けば、無問題」

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posted by さくらもち at 17:31| Comment(2) | とある魔法師の物語