2008年04月25日

第四部 14話

其は神に非ず。

その言葉が、sakuraの頭の中をぐるぐると巡っていた。彼の言っていた『神を騙る魔物』という言葉が予想通りだとしたら、この世界はとんでもない間違いを内包している事になる。
(そういや神学って、ヘルマーシュにあったっけ)
神について語る学問はおろか、精霊に関する学問もほとんど存在しないような気がする。魔法師は純粋な魔法学を追求するのだが、精霊との関連性は問われていない。
同様に聖騎士に、神のなんたるかを説く講義はない。もちろん、そういった議論を戦わせるという話も聞いた事がなかった。
「よく考えたら、おかしいコトいっぱいじゃん」
彼らは彼らについて悟らせない為に、彼らを知る方法を極力なくしたのだ。別の方向に興味を向けさせることで、彼らは「神」であり続けた。
今まではそれでよかった。
魔物を倒し、賞金を稼いで生活費を得る。冒険を重ねて、知的好奇心を満たす。より強い魔物と新天地を求めて、自分達の腕を磨く。急速に力を得ていく冒険者たちは「彼ら」にとって障害であり、同時に良い「素材」でもあったに違いない。
これまでは、それでもかまわなかった。
(現実味もなかったしね)
今は違う。
ふつふつと沸く怒りが、sakuraをいつになく真剣にさせていた。これまでもハラが立てたりもしたが、こんなにも理不尽だと思った事はない。
「なに、似合わん顔してる」
「あ、団長。・・って、皆は?」
「休暇中。誰かさんのおかげで、軽くない怪我を負ったしねぇ」
「う。そ、その節は大変お世話になり・・・・ま、した」
「sakuraの所為じゃないのは分かってるよ。半分くらいは」
「残り半分は!?」
「自業自得」
「うぐっ」
心当たりがあるだけに、反論できない。
更なる攻撃・・ならぬ、口撃があるかと思えば、深いため息が聞こえてきた。
「団長、幸せ逃げますよ?」
「サンタみたいなコト言わないの」
「一緒にせんでください・・」
「まあ、色々調べることがあるからね。疲れているといえば、疲れているのかな」
「もしかして調べ物は城の書庫で、とか」
「他に本がたくさんある所ないでしょ」
「あ、いや・・まあ。確かに」
sakuraも一度は入った事がある。テモズのトールが寛大なおかげで、一般公開されている書庫は、この大陸でも有数の情報量を保管している、と言われている。
問題は、
「すっごく暗くて、じめじめしていて、無駄に高い書棚がぎっちり並んでいるんだけどね」
「本の数はすごいんですよね・・」
「ニオイもすごいけどね」
sakuraはそれを思い出して、げんなりとした顔になった。
カビ臭いという程度じゃあない。長い年月をかけて熟成させた濃度と密度の高いシロモノだ。息を止めても、なんとなく漂う雰囲気に酔ってしまう。
初めて足を踏み入れた者は、まず蔵書の多さよりもニオイに驚く。
「そんなわけで、クリタロスは一時解散状態」
「そうなんですか」
「今、ちょっと喜んだな?」
「ソンナコトナイデスヨ」
「そのうちに嫌でも連れ出してやるから、期待しとけ」
「うえぇ〜」
「あ、そうだ。ついでに蔵書の貸し出しを・・・・って、逃げたな」
Wishは笑い、再び思案顔で城に向かった。


一方、嫌な予感がして逃げ出したsakuraは、また別の人間に捕まっていた。
「出たな、天然トリオ」
「sakuraちゃんの服、地味になってるにょ」
「あ、ホント」
「格下げ?」
「凛、うっさい」
青いヘンタルセットは、ザウルセットよりも格が下の魔法師が着る装備だ。防御力は多少劣るが、俊敏さでは負けない。
「これでもバリバリ強化してあるんだからね」
「ほぇ〜」
「それで、ちょっと光ってるんだ」
「デジレさん、お目が高い!」
「幽霊みたい」
「・・それって褒めてないですよね、絶対褒めてないですよね?」
「あはは」
「笑って誤魔化すなあぁ!!」
デジレ、サンタは凛よりも後から参入したのだが、順調に成長している。魔法師より防御が高く、中遠距離を得意とする弓師は、最近になって一気に急増した。
中には転職する者もいるくらいで、その職業の利便性が窺える。
凛たちは可愛いからという理由で、スカートタイプを好む。鎧にも愛らしさを忘れない装飾は、弓師にも人気のようだ。
「どしたの?」
「あ、ううん。三人して、どこか行くつもりだった?」
「ちょっと探検に」
「あとボス狩りかなぁ?」
「くすん、クエストまだ終わってないのに」
「デジレも誘ったら、すぐに返事したじゃん」
「だって、最近はみんな遠い所で狩りしてるんだもん」
「デジレだって、黙々と依頼ばかりこなしてるし」
「お金は必要です」
「・・確かに」
彼女の発言は妙に説得力がある。
ついつい頷いてしまったsakuraは、がっしりと両腕をつかまれた。
「へ?」
「というわけで」
「行きましょう!」
「魔法師がいれば、ボス狩りも楽勝♪」
「お任せ〜」
「勝手にお任せするな!」
「でも、sakuraちゃんって頼られるの好きだよね」
「うっ」
三人娘が口々に言って、トドメに凛が清清しいほどの笑顔を向けた。間違っていないだけに返事ができず、抵抗力をなくした体をズルズルと引っ張っていく。
キンストンは眠そうな目で、凛たちを見やった。
「どこへ行くんじゃ?」
「ん〜、適当」
「それでいいんかい!!」
「クラーブは消えちゃったし、グリータヒースも最深部以外はいけなくなっちゃったんだもん。もうどこでもいいよ〜」
「じっちゃんオススメの場所で」
「谷じゃな」
「谷かよ!?」
sakuraのツッコミはさらりと流され、キンストンが詠唱に入る。
谷といえば、別名「血の谷」ともいわれる「ネビア谷」のことだ。この谷で、テモズとクァナトの雌雄を決する戦いが行われてきた。今は休戦状態だが、モンスターは戦時中でもウロウロしている。
(レアアイテムが出ますようにレアアイテム出ますように)
「下心つきだと、かえって何も落ちないよ?」
「ええい、心を読むなッ」
posted by さくらもち at 23:50| Comment(0) | とある魔法師の物語
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