2008年10月04日

第四部 19話

キンストンはWishたちを見ると、シワだらけの顔をほころばせた。
「おぉ、やっと来おったか」
「モノグサたちがブータレるんで、集めるの手間取っちゃってね」
「ふぉふぉふぉ、若いうちは我侭も言うもんだて」
「世間話はその辺にして、さっさと送ってほしいんだけど?」
「おお。そうじゃったな」
頷いた老人は、おもむろに片手を出す。
「なに」
「地獄の橋渡しもタダではない、と言うじゃろ」
いつものをもらってないと言うキンストンに、Wishは顔色一つ変えずに一握りの金貨を渡す。直前で小さく舌打ちしたのは、たまたま近くにいたsakuraが聞いていた。
かといってツッコミを入れれば、数倍にして返されるので黙っている。
無謀な戦はさんざん経験してきた。
(もうコリゴリだもんね)
ローザの店から歩くのも面倒でリターンスクロールを使ったせいだろうか。軽く悪酔いしてしまった気がする。
ぼんやりとかすむ視界でキンストンが杖を振るった。
途端に景色が一変する。
ダンジョン特有のこもった空気は濁っていて、少し臭い。モンスターが歩きまわる足音が、そこかしこに反響していた。
「ランデル四階?」
「そう」
ハーツ狩りに奔走したのはいつだったか。
そんな思いがわくほどに、ここに来るのは久しい。フロアの中央に目をやれば、三階と繋ぐ穴が得体の知れない妖気を吐き出していた。降りるのに勇気がいるものだが、昇るのにもかなりの忍耐が必要とされる不可思議な装置だ。
クラーブが忘れられた墓地ならば、ランデルは汚染された魔法研究所だった。あちこちに拷問器具が見られるし、苦悶の表情をはりつけた犠牲者の死体が、まだ各所に残っている。
哀れなことと思うし、見ていて気分も悪いのだが。わざわざ取ってやるほど、こちらもヒマじゃあない。
「走るよ」
「わ、待って」
「sakuraちゃん、置いてくよ〜」
ランデル四階は下の階に比べて、これといった装置はない。造形美を追求したモニュメントに何らかの紋章を刻んだ装飾のある広場は、どちらかといえば集会場に近かった。
更に奥へ進むとカテル神像のある部屋にたどり着く。
「いないね」
「誰かに倒されて、また寝てるんでしょ」
動く神像は、神を模した偽造品だ。その破壊力は凄まじく、その辺にいるモンスターが山盛りかき集めても足りない。
だが、Wishの目指す目的地はここではないという。
「そこに魔方陣あるから、入って」
「へ?」
気がつけば、一緒に来た仲間たちはとっくに魔方陣へ入ってしまったようだ。ぽつんと残されたsakuraを、Wishがどこか可哀想なものでも見るように目を向ける。
「サボってるとね、こういう目に遭うの」
「な、なななんの事か分かりませんなぁ!!」
「はい、さっさと入る」
「うえぇ、押さないで。押さな……ぎゃあああっ」
神像の座の中央部にはカテルを形取った紋章がある。ぎゅむと押し付けられた次の瞬間、目の前がぱっと明るくなった。
そして移動魔方陣特有の無重力状態が続き、ふいに落下する。
「ふぎゃ」
「あ、来た」
「遅いぞ」
「仮にも女性なのですから、もう少し可愛らしい悲鳴上げられませんかね」
「へっぽこだぞ?」
「……ころりん、センセ、大将」
「どしたの?」
「はい」
「なんだ」
「お久しぶりで……いだあっ」
「ウチにはないのか。謝罪とか謝罪とか謝罪とか」
「ご、誤解される言い方は自身を追い詰めるだけかと。っていうか、妙な事口走らないでください。あとで怒られるのあたしなのーっ」
「知るか」
ふぃっと顔を背けたかと思えば、すぐに視線を戻してくる。
「ああ、そうだ」
「まだあるんですか!」
「新しい仲間を紹介しとく」
「終盤なんですけどッ。もうクライマックス〜とか言っちゃってるんですけど!」
「猫だ」
おいで、と手招きされてやってきたのは、くすんだ金の髪をなびかせた弓師だった。近くにいたというのに、気配すら感じられなかった。凛たち三人娘と外見は似ているが、三日月の形をした瞳が赤にも金にも見える。
「確かに猫ですね」
「こんにちは。えと、へっぽこ魔法師さん?」
「誰が教えましたかその通り名」
「間違ってないじゃん」
「団長…」
「ニャ。ち、ちゃんと知ってるよ。sakuraちゃんだよね」
「どうも」
ニコニコと愛想ふりまく彼女は、動きもどこか猫っぽい。そしてWishの後をついていく様子は、どこか誇らしげで堂々としていた。
「猫ちゃんはね、すごくよく働くんだよ」
「全くです。ボーガンタイプなのが残念しきりですね」
「J、それは何の話だ。ま、sakuraも今回ばかりは楽できるかもしれんぞ」
「ムリムリ。へなちょこはへなちょこだから」
「竜虎……今度会ったら、覚えとけ」
「はっ、やれるもんならな」
「うぐぐ」
先に進んでいたせいで離れた所から眺めていた猫が、は〜と息を吐く。
「なるほど、聞いた通りだ」
「まあね。退屈だけはしないから」
「納得です」
二人がそんなやり取りをしているとは露知らず、そして自分が新天地に足を踏み入れた事にも気づかず、その魔法師はいとも簡単に堪忍袋の緒を切った。
「神がナンボのもんじゃ! 何でもやったらああぁ!!」
posted by さくらもち at 23:47| Comment(3) | とある魔法師の物語
この記事へのコメント
キーワード「蘇生・黄泉比良坂」

本当にお久しぶりな更新です。
やっぱり空気に触れると違うね!
ぼんやりとしていた形が
一気にはっきりとしてきた気がします。
まあ、気のせいですけどね!

無謀にも某所にて、戦闘開始。
ちょっとだけ単独特攻したことあります。
いつだったかもう忘れた。
めっさ痛かったのだけ覚えている…。
Posted by さくらもち(管理人) at 2008年10月05日 00:54
(ΦωΦ)にゃw
わーたーしーがーい〜る〜w

私ってA3では役立たずだったってイメージがw
_ノ乙(、ン、)_
でもでも。祝出演\(^−^)/
ありがとです〜♪
これからの活躍に期待してもいいのかな?w
Posted by shiro猫 at 2008年10月11日 13:31
猫さ、いらっしゃいまし〜。
事後報告でゴメンナサイ。
色々考えて、動かしやすい(ご都合主義(殴))ポジションで決定なりました。
活躍しますよ!
…タブン。
Posted by さくらもち(管理人) at 2008年10月14日 16:39
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