2008年10月09日

第四部 20話

軽い眩暈と鼻をつく臭気に、悪い夢でも見ているような錯覚に陥る。ここはどこかと訊ねれば、そんな事も知らないのかと笑われる。
お前は、自らで足を踏み入れた場所が『何』か気づいていないのか、と。
「ここは死の国」
「死?」
「闇の帝王ハーケンが治める、シルバード最下層の世界だよ」
「しるばーど?」
大地は今まで見てきたどれとも違っていた。荒廃したヘルマーシュ大陸にだって、こんなただれた場所なんてなかった。地面の下からせり上がる根は、葉の一つもつけない大樹が生やしたものだ。
洞窟もある。
だが、これは『何』だ。土か。こんなものが生命を育むのか。
猫が教えてくれた言葉が頭をめぐる。初めて来た仲間たちへ簡単な説明をする中で、sakuraはあちこちへ視界をさまよわせる。
灰色の肌、ギラギラと光る暗い金の目。ふくらんだ腹、ひしゃげた腕、耳にまで裂けた口、歪んだ何もかもが異質に見える。それでもモンスターとは違う所が、彼らに見える確固とした意思だろうか。
固く閉じられた扉の前には、四足の獣が鎮座している。二つ頭の化け物だが、ヘトレルへ至る道を塞いでいた門番より弱そうに見えた。
「保管するものでもありますか? 何でもお任せあれ」
「し、しゃべった!!」
「へっぽこー、失礼な事言わないの。ケルベル、ごめんね。田舎者で」
「い、イナカモン!?」
「間違ってないでしょが」
さらりと返すWishに、sakuraは二の句が継げない。
これでも好奇心が導くままに各地を渡り歩き、騎士団仲間に引っ張られては己の限界を越えた場所の探索も経験してきた。それなりの実力も実績もあるつもりだったのに、他でもない団長に否定されたのだ。
「…おや。その方は見覚えがあります」
「あ、あたし?」
「いつぞや、一人で来られた事がありますね。尤も、すぐに上の世界へ還られましたですが」
「じ、じょーだん!」
「嘘だと思うのなら、そちらの移動魔法士に聞くと良いでしょう。このウェデートから地上に戻るには、あれの力がなければ不可能なのですから」
丁寧な口調と、赤い舌が揺らめく異形の獣がどうもそぐわない。吐く息は白く、二つ分の顔から断続的に出ていく。時折聞こえる唸り声のようなものは吐息なのか、それとも本来の声なのか。
「フン! 臆病者の人間が、性懲りもなく見物に来よったわ」
「だ、誰が」
しゃがれた声が馬鹿にしたようにせせら笑った。
「お前の事よ、人間。何か用か? 地上に戻りたいと言うのか」
「sakuraちゃん、ここに来たことあるの?」
すごいねぇ、と感嘆の声は猫のものだ。
「いつの間に背後に?!」
「普通に歩いてきたんやけど…」
「むぅ、さすが猫」
「にゃはは」
「用がないのなら、話しかけるな」
大きな体を揺らしながら、移動魔法士はぶすりと言い放った。ボーリという名前があるらしいが、半裸の姿からは男か女か判別できない。
「奴らも何を考えておるのだか。最近は人間が大勢やってきて、休む間もない。また戦争でもやらかす気ならば、地上でやれと伝えておけ」
「そんなに人が来てます?」
ボーリはちらりと猫を見やり、あからさまなため息を吐いた。
「さっきも人間の集団をハムツへ放り込んでやったわ」
「ハムツに!?」
「そろそろ、死体となって還ってくる頃じゃろ。ヒョヒョヒョ…」
「ね、ねえ……猫さ。ハムツってくえるの?」
「ハムじゃないからね」
「……ハイ」
「説明しましょう!!」
「うわ、先生。どこから沸いたッ」
「さきほど皆で街の外で見物しようとしたら、返り討ちに遭いました」
「魔が魔法封じられたら、何もできんわ!」
「棒立ちの戦士って、邪魔以外のナニモノでもないな」
「だったら早く治せ!」
「仲良く石化してたんだが、見えなかったか? 竜虎」
「根性で治せッ」
無茶苦茶だ。
要するに、sakuraが街の者と話している間に外へ行ってきたらしい。高レベルのWishやtouyaもいたのに、相手にならなかったということか。
「いやー、向こうでソロ狩りしてる弓がいたからさ」
「バステ(バットステータス)効果に対する対策が必要やね」
「ポーション売ってるよ」
「高いやんけ!」
「まあ、そうだけど」
「sakuraちゃん、センセどうしたの。イジケちゃってるけど」
「ころりんが慰めたら、一発で復活すると思うよ」
「へ?」
「ダメ! ころりんはウチ専用!!」
「いや、そういう事実はないかと」
三人寄れば文殊の知恵とはよくいったものだが、てんでバラバラに発言するので説明も知恵もあったものじゃあない。にぎやかな会話をボーリらの迷惑そうな目が眺めている。
「あれ、坂がある」
ふと、脳裏に「黄泉比良坂」という文字が浮かぶ。sakuraのいた世界にも死の国に関する思想は存在していた。死んだものは川を渡り、黄泉の国へ行く。常世とも呼ばれるその世界と繋がる坂を「黄泉比良坂」と呼ぶのだ。
(そんなこたぁ、ここでは関係ないケド)
何とも不思議な気分で、坂を降りていく。
「げ、あのバカ!」
「あたし、しーらないっと」
背後でそんな声が聞こえて、抗議をする為に振り返った。否、振り向こうとした。体を反転した半端な体勢で、怒りの形相が凍りついている。
その石像は、かつての名をsakuraといった。
posted by さくらもち at 12:24| Comment(3) | とある魔法師の物語
この記事へのコメント
実話を含む。
それがへっぽこ魔法師奮闘記クオリティ。

ハムツなんか行ったことないけどね!!
Posted by さくらもち(管理人) at 2008年10月09日 12:26
ハムツはウチも行った事ないなぁ〜
トウヤは良く行ってたけどねぇ〜
それにしてもやっと更新したか。。。
っと思ったらクライマックスとか言うとるし。。。
読者をもっと大事にせなあかんよぉ〜w
まだまだ書いてなくて書きたい事ぎょ〜さん
あるやろぉ
おきばりやっしゃぁ〜
Posted by うぃず改めうぃっしゅ(DA○GOじゃないよ・・・) at 2008年10月11日 03:06
だんちょぉ、お久しぶりのコメありありです!

ネタがあっても書けないことくらいある!!
ほとんどモデルがいるだけに、
てけとーなのは書けないってのもあるのですよ。
弱音にしかなりませんが(下向
後はやっぱりゲームの雰囲気を味わえないと…。

少し復活したさかい、きばりまっせ♪
Posted by さくらもち(管理人) at 2008年10月14日 16:42
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