2008年11月12日

第四部 21話

ふらりとへたり込む姿を、仲間たちが遠巻きに見守る。まだ坂の半ばくらいだが、あまり進むとシドヘの外をうろつくモンスターどもに襲われるのだ。
「気が済んだ?」
「な、なんとか…」
彼女にはほんの数瞬の事であるが、実際にはかなりの時間が経過していた。
「まあ、ある意味で面白い見世物だったな」
「表情豊かな方は得ですねぇ」
人が疲労しきってフラフラだというのに、頭上から聞こえてくるものは楽しげな笑い声まで含んでいる。sakuraはギッと睨むついでに杖を振り上げた。
「ちったぁ慰めろ! あと、ヘンな褒め言葉もいらねぇッ」
「へっぽこ〜。ほらほら言葉遣い、言葉遣い」
「……妙な褒め言葉なんかいらないんデスノヨ」
「キモッ!!」
「ぶん殴る」
振り上げた杖を軋むほどに抱きしめ、低く唸る。
少なくとも魔法師らしからぬ態度には、むしろシドヘの住人たちが驚きに目を瞠る。逆に人間たちは慣れてしまったものだ。ある者はため息を吐き、ある者はそ知らぬふりで会話を続ける。

異変は――その時、起きた。

大地が震える。そう書いて、地震と読む。
シドヘを襲ったものは、まさしくそう呼ぶに相応しかった。何が起きたのかも分からぬままに、視界が二重にブレるのを眺める。目がおかしくなったかとこする必要もない。
酷く、重く、激しい音が耳をぶっ叩いた。
ガクンと体がバランスを崩す。倒れまいと耐える本能をあざ笑うかのように、二度…三度と激しい揺れが襲いかかる。
「きゃああああっ」
思い出したように悲鳴が上がった。
魔法師の転移魔法など、今は何の役も立たない。
聖騎士と戦士の重い鎧は持ち主を大地へ縫い止め、弓師たちはその軽さの所為で真っ先に飛ばされた。
鳥が、バタバタと落ちる。
「傭兵を還せッ。今すぐ!!」
「は、はいっ」
Wishの警告は少しばかり遅かった。その半数が声もなく倒れ伏したのだ。傭兵は冒険者と違い、体の仕組みも少々違う。大陸に存在する唯一の鳥、シューたちもその生態が完全に知られているとは言いがたい。
だからこそ、分からなかった。
何故、たかが地震で死に絶えるのか。
入り口とはいえ、シドヘが死の国だからか。それとも帝王ハーケンによる底知れない技の一端なのか。だが、それは何故なのか。
何故、自分たちが…?
巡る疑問は果てもなく、仮定を作れば作るほどに訳が分からなくなる。
そして、
「お、さ……まっ、た?」
地響きは聞こえない。揺れも感じられない。
バラバラに散ったクリタロス騎士団は、倒れた場所からゆっくり立ち上がる。戸惑いに恐怖を混ぜて、そのまま近くにいる住人たちへと注がれた。
「こんな事は初めてだ」
長髪の男がぼんやりと呟く。その眼差しはいびつな森の向こう側へと向けられているように思えた。
「私も長く、ここにいるが…こんなものは経験した事がない」
「変わりつつあるのでしょうね」
艶めいた声が、笑い声を含んで応える。
浅い紫色の肌を滑る髪を払い、その女は妖艶な笑みを浮かべる。
「場所すら分からないはずの地獄へ人間が訪れる。そして、あの方の元へ愚かにも戦いを挑む。きっと、喜んでいらっしゃるのだわ…」
「イネキル?」
「ああ、甘い香りがする」
うっとりとイネキルは空を見上げる。
「血と肉に、恐怖が混ざる死の香りだわ。なんて甘く、素敵な匂い」
「これだから女というモノは……ああ、失礼」
長髪の男はローブを翻し、慇懃に礼をした。
「初めての方もいるようだから、遅まきながら挨拶させてもらおう。私は鑑定商人フレイルという。ちなみに先程の発言に他意はないので、聞き流してくれるとありがたいな」
「ご丁寧にどうも」
今更馴れ馴れしくされても、逆に胡散臭さが増すだけだ。
さてどうしたものかと頭を巡らせた時、touyaがこちらを見ているのに気付いた。
「どした?」
「あの子が落ちた」
「団長! 坂に、大きな穴がsakuraちゃんで、ぱくって傭兵さんと、まるごと食べちゃった!」
「ころりん、全然意味ワカラン」
「なんで!?」
「理解しようとすれば、まあできなくもないですが。探しに行くのは面倒……っと、リスクが多すぎますかね」
沼に続く坂と住人たちのいる高台を分断するように、その切れ目は広く深く暗黒の口を開けている。出来たての淵はパラと破片を零すので、うかつに近寄る事もできない。
肩をすくめるJの隣で、大将がため息を吐く。
「いや、とっくに一名向かった」
「竜虎?」
「俺はここにいるぞ」
「じゃ、猫か」
「知ってますか、とある地域では『好奇心は猫も殺す』っていう格言があるらしいですよ」
聖騎士の兜は顔を完全に隠しているので、彼の表情は分からない。
「どちらにせよ、待つしかないんじゃないですかね。案外、あっさり戻ってくるかもしれません」
「あれでもへっぽ……自称主人公だからなぁ」
Wishは苦笑いで応え、白銀の頭飾りをぽりぽりと掻いた。
posted by さくらもち at 11:17| Comment(3) | とある魔法師の物語
この記事へのコメント
月刊だったのねコレ・・・
Posted by うぃず at 2008年11月13日 00:29
(ΦωΦ)にゃw

おぉ!これはもしかして,活躍フラグ?w

もしくは,死亡フラグだったりしてw
Posted by shiro猫 at 2008年11月14日 12:05
>ダンチョ
ぢつは月刊だったんです…

>猫さ
相互ありがとうございます〜^^
どっちのフラグが立ってるかはヒミツです。
この連載では、
新入りキャラは必ず洗礼を受けるというウワサが…
Posted by さくらもち(管理人) at 2008年11月15日 12:54
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