2008年11月12日

第四部 21話

ふらりとへたり込む姿を、仲間たちが遠巻きに見守る。まだ坂の半ばくらいだが、あまり進むとシドヘの外をうろつくモンスターどもに襲われるのだ。
「気が済んだ?」
「な、なんとか…」
彼女にはほんの数瞬の事であるが、実際にはかなりの時間が経過していた。
「まあ、ある意味で面白い見世物だったな」
「表情豊かな方は得ですねぇ」
人が疲労しきってフラフラだというのに、頭上から聞こえてくるものは楽しげな笑い声まで含んでいる。sakuraはギッと睨むついでに杖を振り上げた。
「ちったぁ慰めろ! あと、ヘンな褒め言葉もいらねぇッ」
「へっぽこ〜。ほらほら言葉遣い、言葉遣い」
「……妙な褒め言葉なんかいらないんデスノヨ」
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2008年10月09日

第四部 20話

軽い眩暈と鼻をつく臭気に、悪い夢でも見ているような錯覚に陥る。ここはどこかと訊ねれば、そんな事も知らないのかと笑われる。
お前は、自らで足を踏み入れた場所が『何』か気づいていないのか、と。
「ここは死の国」
「死?」
「闇の帝王ハーケンが治める、シルバード最下層の世界だよ」
「しるばーど?」
大地は今まで見てきたどれとも違っていた。荒廃したヘルマーシュ大陸にだって、こんなただれた場所なんてなかった。地面の下からせり上がる根は、葉の一つもつけない大樹が生やしたものだ。
洞窟もある。
だが、これは『何』だ。土か。こんなものが生命を育むのか。
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2008年10月04日

第四部 19話

キンストンはWishたちを見ると、シワだらけの顔をほころばせた。
「おぉ、やっと来おったか」
「モノグサたちがブータレるんで、集めるの手間取っちゃってね」
「ふぉふぉふぉ、若いうちは我侭も言うもんだて」
「世間話はその辺にして、さっさと送ってほしいんだけど?」
「おお。そうじゃったな」
頷いた老人は、おもむろに片手を出す。
「なに」
「地獄の橋渡しもタダではない、と言うじゃろ」
いつものをもらってないと言うキンストンに、Wishは顔色一つ変えずに一握りの金貨を渡す。直前で小さく舌打ちしたのは、たまたま近くにいたsakuraが聞いていた。
かといってツッコミを入れれば、数倍にして返されるので黙っている。
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2008年06月29日

第四部 18話

乱れた緋色の髪もそのままに、魔法師が酒場のテーブルにぐったりと突っ伏す。倒れた拍子に巻き添えをくった空瓶を、同じく突っ伏した聖騎士が受け止めた。
「もうヤダ」
「痛いのイヤダ」
愚痴かボヤキか分からないうめき声が交互に上がる。
「しんどい」
「疲れた」
「我々に長期休暇を要求する!」
「じゃあ、酒代払え」
「「ゴメンナサイ」」
別に、二人とも金欠という訳でもない。それなりに難易度の高いマップに向かう事ができるようになったおかげで、高値で取引されるアイテムも拾えるようになった。
だが、同時に命綱となる装備品にも高額の資金が必要なのである。
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2008年05月31日

第四部 17話

へっぽこ魔法師と弓娘たちが、突如現われたカテル神像相手に奮戦している頃。
「・・・・さて、どうしたものか」
吹き抜けの廃墟と化したクラーブで、誰ともなしに呟いた声が風に流される。彼が見つめているのは、一際大きなクレーターの中心部だった。そこには粉々に砕かれた武器の残骸が散らばっている。
「何か、あったというのが正しいでしょうね」
鎧に包まれた手で、柄だった部分を拾った。
強力な力でへし折ったにしては、それぞれのパーツが細かすぎる。だが、魔法以外にルーン強化された武器をバラバラにする事ができるだろうか。
「しかも、理由がない」
そう言いながらも、Jはある予感に眉を寄せる。
とても悪い予感。
そして、それは確信に近いような直感。
幾多の戦場を潜り抜けてきたからこそ分かる感覚。
とある戦士の墓標は、今やぽっかりと空いた穴だけ――


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2008年05月23日

第四部 16話

深く考えたら負けだ。
そんな言葉が、灰になって消える氷の魔人から聞こえたような気がした。血飛沫はとうに谷の養分になってしまっている。モンスターの大小に問わず、その死体はきれいになくなる。便利だと思う反面、どこか薄ら寒いものを感じる。
「みけんのしわー」
「ギャー」

  とす。

そんな効果音がぴったりの弓矢が、sakuraの額中央部に突き刺さった。受けた本人は低級モンスターのような悲鳴を上げて後方に倒れる。
「むつかしい顔、いくない」
「ふつうに痛かったです、サンタお嬢さま」
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2008年05月16日

第四章 15話

ネビアが血の谷と呼ばれたのは、理由がある。
「ちょうどテモズとクァナトの中間地点に谷があって、そこが戦場になった・・・・って聞けぇ!!」
「置いてくよ〜?」
身軽な弓師たちが、凹凸の激しい地平を滑るように進んでいく。
谷には三つの段差があり、中央部には何かの祭壇らしき跡が残っていた。四方からの階段はあるものの、ほとんど何も残っていないに等しい。
それが何に使われていたか、知る者はもういない。
「レア武器!」
「レアアイテム!」
「けーけんち〜」
「それ一番しょぼい」
え〜、と不満げなデジレはともかく、サンタと凛はモンスターの攻撃をひらりひらりと避けながら、突き進んでいた。
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2008年04月25日

第四部 14話

其は神に非ず。

その言葉が、sakuraの頭の中をぐるぐると巡っていた。彼の言っていた『神を騙る魔物』という言葉が予想通りだとしたら、この世界はとんでもない間違いを内包している事になる。
(そういや神学って、ヘルマーシュにあったっけ)
神について語る学問はおろか、精霊に関する学問もほとんど存在しないような気がする。魔法師は純粋な魔法学を追求するのだが、精霊との関連性は問われていない。
同様に聖騎士に、神のなんたるかを説く講義はない。もちろん、そういった議論を戦わせるという話も聞いた事がなかった。
「よく考えたら、おかしいコトいっぱいじゃん」
彼らは彼らについて悟らせない為に、彼らを知る方法を極力なくしたのだ。別の方向に興味を向けさせることで、彼らは「神」であり続けた。
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2008年04月11日

第四部 13話

  ―― お い で

誰かの声がする。

  ―― お い で

優しく、柔らかな響きに乗せて、甘い誘いが聞こえてくる。
「だれ?」
「私は導くもの。そなたが追い求めてきた存在」
乳白色のもやの中で、何か大きな姿が降り立つのが見えた。それがとてつもなく強大なものだと直感的に悟る。たぶん、その名前を知っているはずなのに、彼女には探し当てることができなかった。
答えの見えない苛立ちに、彼女は眉を寄せる。
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posted by さくらもち at 16:53| Comment(4) | とある魔法師の物語

2008年04月04日

第四部 12話

かつて同じ道を歩いた。同じ未来を夢見た。求めるものが何かという事もわからないまま、ただ強さを追いかけていた。
「・・でも、もう」
昔のままの自分達じゃない。守るべきものがあり、共に行く仲間があり、目指す先がおぼろげに見えてきた。何も失わずに進む事はできず、それでも進まずにいられないという事を知った。
「終わりにしよう、湖伽」
もしかしたら、これも失ったものの一つだったのだろうか。
傷つき、血を流す仲間たちとは逆に、欠けた鎧から見えるのは空洞。本来なら見えるはずのない装甲の裏側は、表以上に傷だらけだった。
それは彼の戦ってきた路。
あの時分かたれてから、独りでどれだけの傷を負ってきたのか。
「感傷に浸っている暇があるのか!」
「うぐっ」
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2008年03月26日

第四部 11話

両手足に4つ、胴の前後に2つ、そして両頬に刻まれたルーン文字が光を放つ。勝利と生命力の呪を顔に宿した魔法師は今、どんな姿になっているか自覚しているのだろうか。
「戦士に肉弾戦を挑もうなど、百年早い!」
怒鳴り、魔力を帯びた杖ごと弾き返した。
小柄な体はまともに衝撃をもらって、そのまま後方へと転がっていく。それでも途中で地面にくらい付き、ギッと睨んできた。
「――ッ!!」
その眼は、どこか血の色を連想させる。
褐色の肌に緋色の髪がからみつき、ヒビ割れて欠けた鎧からは真新しい血が流れ続けていた。傷を癒す間もなく、戦闘にもつれこんだのだ。
にもかかわらず、彼女の力は衰えるどころか狂気じみた威力を発揮する。
「それが……奴に与えられた『力』か」
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posted by さくらもち at 18:09| Comment(3) | とある魔法師の物語

2008年03月21日

第四部 10話

「その前に湖伽」
「・・何だ。命乞いなら聞かんぞ」
「なーんかさ、忘れてやしないかい?」
ニヤリとWishが笑う、その時だった。
「んがあああああぁっ!!」
ラニアスの断末魔よりも高く、鈍く、そして濁った音を立てて、ついでに細かな破片も四方八方に飛び散る。
「ほらね」
もう三度目ともなれば、仲間たちもすっかり慣れたものだ。
ある者はとうに避難しているし、ある者は器用に破片を避ける。これ以上ダメージをもらいたくないというのもあったが、我らがへっぽこ魔法師がやられっ放しでいるはずがないのである。
「きぃ〜さぁ〜まあぁ〜!!」
ゆらりと立ち上がる身体に、9つのルーン文字がぼうっと光を放つ。
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posted by さくらもち at 17:21| Comment(3) | とある魔法師の物語

2008年03月15日

第四部 9話

「ちぃっ」
苦し紛れの魔術が、閃光をばらまいて発動する。
誰もが瓦礫がれきと共に落ちていく中、それは一瞬だけ人の形をとったように見えた。再び光の塊になっては飛び上がり、かなり離れた距離で白銀の鎧に姿を変える。
「間に合え!!」
魔術師たちが唯一持ち得る召喚魔法フェロウによって、クリタロス騎士団の全員を光が覆った。彼らの消えたわずかな隙間は、あっという間に残骸が押しつぶし、ラニアスと共に盛大な土煙を上げる。
「ぎゃああぁっ」
「・・あのさぁ」
ぽりぽりと頭をかきながら、Wishが苦く笑った。
「もうちょっとカワイゲのある悲鳴を上げられない?」
「無茶言うな!」
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2008年03月07日

第四部 8話

魔法師は莫大な魔力保持量が取り柄であり、命綱でもあった。それがどんどん減っていくのを感じながら、touyaは呟いた。
「まずいな」
「え、何か言った?!」
「……」
ラニアスの攻撃も凄まじいが、応戦する仲間たちの繰り出す技も強力なものばかりだ。的を外せば、頑強な床が花のように弾けて咲く。命中すれば、怒り狂ったラニアスの咆哮が轟く。
狩場を転々と変え、初期の頃よりもずっと強くなったと感じていた。雑魚じゃ相手にならない。もっと強い敵を探して、もっと珍しいものを見てみたい。
それは単なる気の逸りだったのか。
「きゃああっ」
「凛! …ぐぉおッ」
「常に一定の距離を保つように心がけろ! 近づけば、へっぽこの二の舞だぞ」
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posted by さくらもち at 20:12| Comment(4) | とある魔法師の物語

2008年02月29日

第四部 7話

全力疾走したおかげで、一同はすぐに出口へ集まっていた。それを追いかけるモンスターの集団も徐々に数を増やしていく。
「セルバブにトキシックですか、全く節操のない・・。あちこちの魔物を寄せ集めたっていう感じですね」
「いや、冷静に批評している場合じゃないから」
「あ、ほら。押してダメなら引いてみろ、って言わない?」
「扉そのものが熱くなっていて、触るどころじゃないですよ!」
ほら、と見せるマンキンの手は見事に焼けただれていた。
(触ったんだ・・)
「痛くないんですか、全く。ちょっと貸しなさい」
「あ、はい。スミマセン・・」
かろうじて扉らしきカタチをしているだけで開かないのならば、周りを囲む岩と変わらない。それぞれが岩壁を背に、弓や魔法で応戦するものの、熱のせいで命中率も上がらなかった。
流れ矢に当たるとまずいので、戦士と聖騎士は珍しく後方で待機だ。接近してくるモンスターがいないのは幸か不幸か。
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2008年02月22日

第四部 6話

「な、なんだこれ・・」
誰か呟いた言葉は、そのまま皆の心境そのものだった。
視界が揺らぐ。まるで蜃気楼か、陽炎の中に入り込んでしまったかのように境界線があやふやだ。ぼやけたラインがグネグネとねじれ、頭の中までおかしくなりそうになる。
「熱気のせいだな」
Wishが言った。
「言われてみれば、やけに熱いですね」
「うん、むわ〜っとするね」
「クラーブって、こんなに熱かったっけ?」
重装備の代名詞のような聖騎士たちは、既に声もない。彼らが黙々と歩みを進める隣で、弓師たちはうんざりとした様子で手をパタパタさせていた。
にじむ汗が、歩くたびの振動が、体力を少しずつ削っていく。
「竜虎の所為じゃない?」
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posted by さくらもち at 16:37| Comment(2) | とある魔法師の物語

2008年02月08日

第四部 5話

たっぷり食べて(呑んで)、存分に寝た後にやる事は決まっている。
「運動!!」
「その杖壊したら――・・」
「あーあーきこえなあぁ〜い」
クロロレンスからテモズへと場所を移しても、ぞろぞろと歩く一行の面子に変わりない。まるでそれが当たり前のように、彼らはキンストンの前へ向かっていた。
「sakuraちゃんって、ヘンな所で素直だよね」
「約束できない事は返事しない」
「そうそう」
「外野うっさい!」
怒鳴りながら、振り向いたその鼻先を何かが掠めた。かすかに振動の余韻よいんを残すそれが、幅広の剣でなければどうなっていたことか。
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2008年02月02日

第四部 4話

「あ〜、つっかれたー」
「お疲れ様」
ゴロンと横になるsakuraの横に、ころりんも腰を下ろす。思わぬボス戦で一時休戦となり、クリタロスの皆はクロロレンスに帰還していた。
「転がるだけで、よく疲れるね」
「あ、団長。お疲れ様です!」
「おつかれーっす」
「・・sakura」
「あい?」
「一応女の子なんだから、そういう格好は止めなさい」
「ふむ」
改めて自分の姿を見下ろせば、申し訳程度の鎧がスカートのように広がっている。魔法師の装備が露出度高めなのは周知の事実で、あおむけになれば色々と全開になってしまう。
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2008年01月26日

第四部 3話

緑あふれるヘイたちの楽園クロロレンス。
今日も今日とて、若者(バカモノ)たちの悲鳴が響き渡る。
「訂正! スパトキア、通称スパ。つまり温泉だ・・ギャーッ」
「だぎゃあ・・」
鍛錬なのか、モンスター集め要員なのか。連行された先で酔っ払い有志たちが倒れていく。要領を掴めば、楽して莫大な経験値を得られるのだが、気を抜けば危ないという点で大差はない。
芋虫は平気になったsakuraも、同じく群れをなす虫の大軍には辟易へきえきしていた。
「一寸の虫にもコブのカタマリ」
「・・五分の魂だよ、sakuraちゃん」
「ごふん?」
「スパの大地が好きなsakuraらしいよね」
「団長、酷!!」
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posted by さくらもち at 01:22| Comment(2) | とある魔法師の物語

2008年01月21日

第四部 2話

「・・・・とか何とか言ってたくせに」
ことさらにため息を吐いて、チラリと横に視線をくれる。
「何?」
「昼間っから呑んでるし」
「そんなことゆって、ころりんもイケるクチなんでしょ?」
「強いと言った覚えないんだけどなー」
ぼやきながらも、凛もグラスを傾けた。
テモズ特産なのかは知らないが、ウル酒は口当たりも良くて飲みやすい。冒険者たちの中でも、女たちが好む酒だ。荒くれ者の代名詞にされたりする戦士たちの中で、強いものを好む火酒といえば、イダール酒が挙げられる。
ほとんど原酒と言われるゲテモノだ。何故かエルフラの店に常備してあるのだが、注文されたという話は聞かない。居酒屋主人であるローゼも避けるほどだというから、相当なものだろう。
「アンタは駄目」
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posted by さくらもち at 15:12| Comment(4) | とある魔法師の物語