2008年02月22日

第四部 6話

「な、なんだこれ・・」
誰か呟いた言葉は、そのまま皆の心境そのものだった。
視界が揺らぐ。まるで蜃気楼か、陽炎の中に入り込んでしまったかのように境界線があやふやだ。ぼやけたラインがグネグネとねじれ、頭の中までおかしくなりそうになる。
「熱気のせいだな」
Wishが言った。
「言われてみれば、やけに熱いですね」
「うん、むわ〜っとするね」
「クラーブって、こんなに熱かったっけ?」
重装備の代名詞のような聖騎士たちは、既に声もない。彼らが黙々と歩みを進める隣で、弓師たちはうんざりとした様子で手をパタパタさせていた。
にじむ汗が、歩くたびの振動が、体力を少しずつ削っていく。
「竜虎の所為じゃない?」
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posted by さくらもち at 16:37| Comment(2) | とある魔法師の物語

2008年02月14日

へっぽこ魔法師の奮闘記・番外編

人生というものは、きっと甘くない。
「sakuraちゃんの事好きだなぁ」
「へ?」
ふいに転がりでた台詞に、sakuraは思わずグラスを取り落とすところだった。当の本人はニコニコとしているし、冗談やふざけて言うような性格でもない。
たまたま同席していたWishがニヤリとした。
「・・出た。ころりんの告白」
「ええ? そんなんじゃないよ」
「ひどい!! もてあそばれた!」
「違うってば」
「ころりんはね、前にも団員に大告白したことあるのよ」
「二股?!」
「あのねぇ・・、ちょっと二人とも?」
呆れ気味に止めようとする凛には構わず、sakuraが身を乗り出す。
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posted by さくらもち at 14:06| Comment(0) | とある魔法師の日常

2008年02月08日

第四部 5話

たっぷり食べて(呑んで)、存分に寝た後にやる事は決まっている。
「運動!!」
「その杖壊したら――・・」
「あーあーきこえなあぁ〜い」
クロロレンスからテモズへと場所を移しても、ぞろぞろと歩く一行の面子に変わりない。まるでそれが当たり前のように、彼らはキンストンの前へ向かっていた。
「sakuraちゃんって、ヘンな所で素直だよね」
「約束できない事は返事しない」
「そうそう」
「外野うっさい!」
怒鳴りながら、振り向いたその鼻先を何かが掠めた。かすかに振動の余韻よいんを残すそれが、幅広の剣でなければどうなっていたことか。
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posted by さくらもち at 18:38| Comment(4) | とある魔法師の物語

2008年02月02日

第四部 4話

「あ〜、つっかれたー」
「お疲れ様」
ゴロンと横になるsakuraの横に、ころりんも腰を下ろす。思わぬボス戦で一時休戦となり、クリタロスの皆はクロロレンスに帰還していた。
「転がるだけで、よく疲れるね」
「あ、団長。お疲れ様です!」
「おつかれーっす」
「・・sakura」
「あい?」
「一応女の子なんだから、そういう格好は止めなさい」
「ふむ」
改めて自分の姿を見下ろせば、申し訳程度の鎧がスカートのように広がっている。魔法師の装備が露出度高めなのは周知の事実で、あおむけになれば色々と全開になってしまう。
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posted by さくらもち at 01:17| Comment(2) | とある魔法師の物語

2008年01月26日

第四部 3話

緑あふれるヘイたちの楽園クロロレンス。
今日も今日とて、若者(バカモノ)たちの悲鳴が響き渡る。
「訂正! スパトキア、通称スパ。つまり温泉だ・・ギャーッ」
「だぎゃあ・・」
鍛錬なのか、モンスター集め要員なのか。連行された先で酔っ払い有志たちが倒れていく。要領を掴めば、楽して莫大な経験値を得られるのだが、気を抜けば危ないという点で大差はない。
芋虫は平気になったsakuraも、同じく群れをなす虫の大軍には辟易へきえきしていた。
「一寸の虫にもコブのカタマリ」
「・・五分の魂だよ、sakuraちゃん」
「ごふん?」
「スパの大地が好きなsakuraらしいよね」
「団長、酷!!」
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posted by さくらもち at 01:22| Comment(2) | とある魔法師の物語

2008年01月21日

第四部 2話

「・・・・とか何とか言ってたくせに」
ことさらにため息を吐いて、チラリと横に視線をくれる。
「何?」
「昼間っから呑んでるし」
「そんなことゆって、ころりんもイケるクチなんでしょ?」
「強いと言った覚えないんだけどなー」
ぼやきながらも、凛もグラスを傾けた。
テモズ特産なのかは知らないが、ウル酒は口当たりも良くて飲みやすい。冒険者たちの中でも、女たちが好む酒だ。荒くれ者の代名詞にされたりする戦士たちの中で、強いものを好む火酒といえば、イダール酒が挙げられる。
ほとんど原酒と言われるゲテモノだ。何故かエルフラの店に常備してあるのだが、注文されたという話は聞かない。居酒屋主人であるローゼも避けるほどだというから、相当なものだろう。
「アンタは駄目」
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posted by さくらもち at 15:12| Comment(4) | とある魔法師の物語

2007年12月28日

第四部 1話

乾いた音を立てて亀裂が走り、杖が砕ける。
「ち・・っ」
舌打ちをして残骸を捨てるなり、眼前に迫るモンスターたちから距離をとる。代わりに走り出た女傭兵が刃を合わせた。その盾に奴らの爪は通らない。魔法の加護を得た聖剣は邪に染まらない。
「やっぱり強度上げないと、無理か」
その姿は騎士のようでもあり、術師のようでもあった。新たな杖を引っ張り出すと、前方に掲げながら詠唱に入る。
傭兵の頭上を越えた矢が、彼女の兜を弾き落とす。ふわりと広がる赤い髪はどこかくすんだ色に見えた。無造作に編んだ房が背中を叩き、ほつれた髪筋が頬を撫でては、離れゆく。
「吹っ飛べ!」
派手な音を立てて、大きな落雷がシバブの大地に穴をあけた。更に杖をふるえば、氷塊が穴へめり込む。続けて巻き起こる業炎が辺りを焼き尽くして、範囲内のモンスターを消した。
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posted by さくらもち at 23:53| Comment(2) | とある魔法師の物語

2007年12月21日

第四部 序

太陽の光も届かない礼拝堂で、朗々と念仏のような呪文が続いている。まじないと書いて「のろい」と読むなど、よくできていると湖伽は思った。
今響く音こそ、そう呼ぶに相応しい。
「カテル様・・」
「おおぉ・・」
感嘆のようなものが洩れて、再び呪文の詠唱が再開される。
カテリオンたちは、ここ数日の間ずっとこの状態なのだ。彼らの信奉する神が何を告げたか知らないが、狂信者にはどんな言葉でも甘美に響くだろう。
「フン、馬鹿な連中だ」
もうすぐ神殺しが始まる。
巧妙に隠された「それ」を得た冒険者たちが、次々とかの地へ向かうだろう。世界の真実を知り、絶対的なモノなどないと知ったなら当然の結末に思える。
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posted by さくらもち at 17:21| Comment(3) | とある魔法師の物語

2007年12月14日

第三部 22話

「うー・・」
身構えている時に限って、出てこないものである。
「アルカリアス、もう一体くらい沸きませんかねぇ」
「しょぼー」
クラーブ三階には通称“竜”と呼ばれるボスクラスのモンスターが出現する。ヘトレル地方に足を伸ばしたい冒険者にとって、この竜は格好の獲物なのだ。
なにせ、レアアイテムを落とすからである。
「ルーン増えたけど、何も起きないし〜」
「そのマーキング、パワーアップアイテムか何か?」
大人しく付いてきた割に、よく分かっていないギアが覗き込んでくる。
魔法を酷使したばかりなので、左頬から足にいたるまでのルーン文字が浮かび上がっていた。6番目のルーン「エオ」は右腕に現われ、他のそれよりも強い輝きを放っているようだ。
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posted by さくらもち at 23:04| Comment(2) | とある魔法師の物語

2007年12月07日

第三部 21話

「正気ですか?」
そう聞いたのは、皆にドクターと呼び慕われるクリタロス騎士団の聖騎士。もう一人の若き聖騎士は、話の内容が理解できずに大あくびをしていた。
「正気も正気。かなり本気」
「まともな神経とは思えませんね。いや、むしろ無謀極まりない」
「うわー、遠慮ないよこのヒト」
「いいじゃん? そのマーキング増えたら」
「文様!! もしくはルーン文字ッ」
「・・増えたら、強くなれるんでしょ〜」
事態を呑みこめていないからの発言だ。sakuraとJはギアをしばらく見つめてから、どちらともなくため息を吐いた。
「うん、かなりバカっぽいコトゆってたのは認めるわ」
「元々バカですけどね」
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posted by さくらもち at 17:57| Comment(2) | とある魔法師の物語